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かわさきマイスター活動レポート

小学生120人がものづくり体験

マイスター3人が市立長沢小学校へ

田中 司好さん(食品サンプル、平成21年度認定)

食品サンプルは日本独特の技術。田中さんは最近、ドイツの国営放送からも取材を受けたそうです。
食品サンプルは日本独特の技術。田中さんは最近、ドイツの国営放送からも取材を受けたそうです。
田中さんは本物を見ずに、食品の色や形を正確に再現することができる、食品サンプル界の第一人者。本物以上に、「おいしそう!」と感じさせるサンプルを作っています。特に高度な技が要求される、和食や生魚の再現を得意とし、マスコミの取材やテレビ出演も多数、という人気のマイスターです。

サックサクの天ぷらに大歓声

色付けした液状のロウをお湯に落とします。お湯の温度はお風呂と同じぐらい。
色付けした液状のロウをお湯に落とします。お湯の温度はお風呂と同じぐらい。
授業は天ぷらのサンプル作りから。まずは、田中さんが実演。熱湯で溶かしておいた液状のパラフィン(ロウ)をぬるめのお湯に落とし、そこにサンプルの具を乗せてひっくり返し、手で衣を成形していきます。エビ、カボチャ、ナス、サツマイモ、シシトウなど、お馴染みの天ぷらが次々とお湯から引き上げられると、子供たちの間から「すごい!」「おお~」という歓声と拍手が起こりました。ロウを落としてからあっという間にできるので、「天ぷらが揚がるの、10秒だね」と感心する生徒も。
たちまち、サクサクの衣ができました。
たちまち、サクサクの衣ができました。
本物そっくり!
本物そっくり!
全員が手を挙げました。
全員が手を挙げました。
次に、田中さんが「やってみたい人?」と問いかけると、生徒全員が元気良く手を挙げました。そこで、各班2人ずつが代表でエビの天ぷらを作ることに。田中さんは「ロウをもっと上から垂らしてごらん」「ぽんと引っくり返すように」などと、コツを交えて子供たちに教えます。お湯に落としたばかりのロウの熱さにびっくりしながらも、みんなどんどん挑戦し、田中さんから「最初からこれだけできれば上等だよ!」とほめられていました。
溶けたロウの熱さにちょっとびっくり。
溶けたロウの熱さにちょっとびっくり。
触って感触を確かめます。
触って感触を確かめます。
続いて、レタス作りの実演。白と緑の2色のロウをすくってお湯に垂らし、お湯に引き込みながら伸ばしていきます。しわしわの大きな葉っぱができたら、白い部分が中心にくるように手で丸めて成形。するとあら不思議、どこから見ても立派なレタスです。「中はどうなっているかな?」と田中さんが包丁でカットすると、中まで本物そっくりで、「芯がある!」と子供たちは大喜び。次に代表の生徒が田中さんに教わりながら挑戦。手にまとわりつくロウにちょっと苦労しながらも作り上げ、見守っていた生徒たちから、「きれい」とほめられてうれしそうです。

教えて、田中さん

質疑応答タイムには子供たちから次々と手が挙がり、みんな、教えてもらったことを一生懸命ワークシートに記入していました。

○一番大変なことは?
技術として一番難しいのは、鯛です。鱗を一枚一枚手作りします。だから、10人が作れば、10個違うものができる。生魚が作れるようになれば、一人前です。

○やりがいは?
挑戦して、注文していただいた方に「よくできているね」と言われることです。

○今まで作った中で、一番大きいものと一番小さいものは?
大きいものは1メートルもある活け造りの鯛、小さいものではごまを一粒ずつ、作っています。

○どのくらいの修行で本物を見ないでも作れるようになったの?
生魚は15年ぐらい、他のものは3年ぐらいです。ハンバーグなんかは家庭や作る人によって焼き色が違うので、おいしそうにつくることが秘けつです。

○本物とサンプルではどっちが高いの?
サンプルは本物の食品の5倍が相場です。

○材料は何ですか?
今日はロウを使っていますが、最近はビニールで作っています。

オリジナルのスイーツサンプルに挑戦!

まずは田中さんがお手本を見せます。白いシリコンは本物の生クリームそっくり。
まずは田中さんがお手本を見せます。白いシリコンは本物の生クリームそっくり。
いよいよ、生徒たちが楽しみにしていた製作の時間。全員に、マカロンやタルトのスイーツのキットが配られ、自分で生クリームそっくりの白いシリコンを絞り、フルーツやチョコのサンプルをのせて仕上げます。まずは田中さんがお手本を見せ、白いクリームが絞り器から押し出されると、子供たちの口から「うおお」という声が。その後、田中さんと、跡継ぎで食品サンプル作成15年のキャリアをもつ次男の信司さんが絞り器をもって各班を回り、全員がオリジナルのスイーツサンプルに挑戦しました。
クリームを絞る生徒に「最後はゆっくりね」とアドバイスする田中さん。
クリームを絞る生徒に「最後はゆっくりね」とアドバイスする田中さん。
チョコやベリーをのせて仕上げれば、オリジナルのスイーツサンプルが完成!
チョコやベリーをのせて仕上げれば、オリジナルのスイーツサンプルが完成!
色とりどりのおせちにみんなの目は釘付け。手前はポテトチップス。
色とりどりのおせちにみんなの目は釘付け。手前はポテトチップス。
スイーツサンプル作りの間に、生徒たちは交代で田中さんが持ってきてくれた食品サンプルを見学し、手で触れて感触を確かめました。おせちや海鮮鍋、カレーライス、スパゲティなど、本物以上においしそうなサンプルが並び、食欲をそそります。子供たちは「食べられそう」「これが偽物なんて信じられない!」と、目を瞠っていました。米粒に触って、「冷凍ごはんみたい」と言う子も。ちなみに、これらは全部、ビニール製だそうです。
田中さんの技術の真骨頂、鯛をメインにした海鮮鍋。
田中さんの技術の真骨頂、鯛をメインにした海鮮鍋。
フォークが空飛ぶナポリタンスパゲティ。「重力に逆らっているね」と言う生徒も。
フォークが空飛ぶナポリタンスパゲティ。「重力に逆らっているね」と言う生徒も。
作ったスイーツサンプルはシリコンが固まるのを待ち、月曜日に生徒たちに配られるとのこと。大きな楽しみができて、授業が終わりました。田中さんが「楽しかった?」と問いかけると、生徒たちは大きな声で「はい!」と返事。「じゃあ、またやるからね」と田中さんは約束してくれました。

わたしたちが感じたこと

○田嶋瑞希くん
絵など芸術が好きなので、サンプル作りもおもしろそうだなと思って選びました。天ぷら作りは、ロウが手にからまって、見かけより難しかった。これまで、食品サンプルは機械で作ると思っていたけれど、今日やってみて、サンプル1個作るのに大変なんだと思うようになりました。

○越路陽さん
食品サンプルはレストランでよく見かけるので、作り方が知りたくて参加しました。クリームを絞るのは、バランスをとるのが難しくて失敗しちゃった。天ぷら作りは、引っくり返しただけで本物そっくりになるのが不思議でした。かわさきマイスターはすごい、と思います。お母さんにも教えてあげたい。

田中さんのお話

食品サンプルは手作りですので、今日は子供たちにものづくりを体験させてあげたかった。すごく喜んでくれてうれしいです。一人ひとり作ったものが違うので、体験してもらってよかった。一人ずつ違うことが、ものづくりのおもしろさです。

私のこだわりは、生物。特に生魚は、魚の種類や産地によっても色や形が違います。鱗の一枚一枚まで本物に近付けるように作っています。難しいのは目です。よく見ると、魚の目は真ん丸ではなくて、少し変形しています。でも、そっくりなだけでもだめで、例えば、鯛の色は本物はもっと黒ずんでいる。サンプルなので、見ておいしそうと思ってもらえるように作っています。
ロウやビニールといったまったく異質の材料から、本物そっくりな「食べ物」が生み出されるものづくりの不思議を体験できた教室。溶けたロウの熱さやビニールの感触に肌で触れたことで、今まで眺めるだけだった食品サンプルの世界が、身近に感じられるようになったのではないでしょうか。生き生きと輝く子供たちの表情が、とても印象的でした。