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かわさきマイスター紹介

デザイン彫金士 久保田 宗孝さん

手づくりジュエリーで顧客の夢をかなえる

提供:川崎市
久保田さんは宝飾品、時計など装飾品の製作をデザイン起こしから金、銀、プラチナなど各種材料の溶解分析・地金作成・組み立てまで、全工程を一人でこなしています。顧客からの難問や難しいデザインに対応することで、オリジナリティのある技術を磨き、独自で繊細かつ丈夫な作品を生み出しています。他の店で製作や修理を断られた顧客に自分の技術を活かして創作、大切なジュエリーを蘇らせることに仕事の喜びを感じています。今なお技術向上に努める一方で、若手の指導育成にも熱心なマイスターです。
プロフィール
久保田 宗孝さん

川崎市生まれ。工業高校卒業後、都内のジュエリー専門学校で2年間、ジュエリーデザインと製作を学ぶ。その後、宝飾店勤務や手作り専門のジュエリー職人に師事し技能を磨く。伝統的な技法を守りながら、新しい技術も積極的に取り入れ、昭和63年独立、現在地に手作り工房「ジュエリークボタ」をオープン。現在に至る。平成21年度かわさきマイスター認定。川崎区在住。
これは、久保田さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

久保田さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

母型となる素材に熱を加えて型を彫り込みます。
母型となる素材に熱を加えて型を彫り込みます。
もともと手先は器用の方で、子供の頃から物を作るのが好きでした。高校時代にはクラブ活動で陶芸をしたり、竹で指輪を作って自分で付けて楽しんだりしていました。洋服を作ったこともあります。指輪したりピアスしたり、周りから「変な奴」と思われていたようです。
人と同じものを使うのが嫌で、とにかく新しいものを身に付けるのが好きでした。それも既製品では満足せず、同じものを自分で作りました。もらったものでも作り変えてしまいました。人が持っていないものを自分で作らないと気に食わないのです。
高校は電気が専攻でしたが、一転ジュエリーに向かったのはたまたま雑誌で見たジュエリー専門学校の生徒募集ページで女性が指にはめた宝石が輝いていたのがとても印象的だったのがきっかけです。「よし、この道に進もう」とその時決めました。
それと、父親からもらった結婚指輪1個と、あとは自分のへそくりで買ったオパールの指輪しか持っていなかった母親に、そういう道に行けば自分で指輪を作ってあげられるかなという思いもありました。
そしてその専門学校に入学し2年間勉強しました。そこを卒業して宝飾店に勤めたり、個人でやっているジュエリーの職人に師事したりして経験を積み、昭和63年に独立しました。

やっていて1番面白いと感じることは何ですか?

1、地金を熱し
1、地金を熱し
結婚指輪一つ作るのにもデザインを考え、元になるリングを複雑に加工したり模様を削ったりしながら丹念に仕上げていくプロセスが面白いです。どんな仕事もじっくりと時間をかけて作り上げていくのが主義で、このあいだ作った120㍉大の亀型ペンダントは金、ルビー、ダイヤなどを散りばめ2、3カ月もかけて完成しました。これなどは注文を受けてから数えると2年ほどかかっています。たまにジュエリー仲間に頼まれ大量生産品用の原型を作ることはありますが、自分自身では量産品は手がけません。1品1品違うデザインの作品を作り上げるのが私のやり方です。オーダーメイドの手作り工房を標榜するのもそのためで、それがやりがいにもつながっていますね。地金1つを作るにしても、いろいろ素材を配合して作るのが楽しいです。これも工業高時代にいろんな実験をやっていたのが役立っています。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

2、圧縮ローラーに挟み
2、圧縮ローラーに挟み
寝る間も惜しんで夢中でやってきたのが一番よかったと思います。それと、失敗してもそれを気にせず前へ進んだことです。失敗を恐れずにやってきた経験が結局、技術向上につながったと思います。また、これは今でもそうですが何にでも興味を持ち続け、本もどんどん読んで知識を蓄えました。ブランド品の作り方を探求し、新しいものを積極的に見てきました。専門学校を出て手作り専門のジュエリー職人に師事したことも良かったと思います。
さすがプロはすごいです。何せ作品を仕上げるのが早く、こちらが3、4日とか1週間もかかって出来上がるのに対し、師匠はたった1日で作り上げていましたね。やっと仕上げたら、金づちでつぶされたことが何度もありました。悔しかったですよ。やめようと思って出たら連れ戻されたこともあります。そうした修業時代の苦労が今のもとになっていると思います。今でもその親方には腕では勝てないかもしれません。しかし、器用さでは負けないと思います。それに私は色々なものに対応できますので、その点でも勝っていると自負しています。学校で学んだことと、親方から教えられたこと、この2つがミックスして今の自分があるのだとつくづく思います。だから今も私のところには他所ではできないようないろんなものが持ち込まれるんですよ。それがまた自分の励みになっています。

苦労したことはありますか?

3、圧力を加えて伸ばしていきます
3、圧力を加えて伸ばしていきます
デザイン通りに作っていくのは結構大変ですが、楽しんでやっているので作品作りで苦労したことはあまりありません。ただ、お客様との信頼関係を作り上げるのには気を使います。近年、ジュエリーを志す人は多いですが、せっかく店を出しても、お客様とのコミュニケーションがうまくとれずにやめる人もいます。一つしかない貴重な品物を預かるわけですから、神経を使いストレスが溜まってしまうんですね。高価な宝石・貴金属類を扱い、失敗して材料をダメにしてしまうリスクも伴いますから、個人で店を出す人はそう多くないです。腕に自信がないとできない商売ですね。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

4、ご覧のように細長くなりました。この工程を何回も繰り返しさらに薄く伸ばしていきます
4、ご覧のように細長くなりました。この工程を何回も繰り返しさらに薄く伸ばしていきます
当たり前のことかも知れませんが、お客様の要望を聞き図面通り、期待通りに作り上げることです。ちょうど今作っているこの結婚指輪は、知り合いの人がデザインは誰かに起こしてもらったようですが製作を何軒かのジュエリー店に頼んだら、みんな「難しいので、できるかどうかわからない」と言われたそうです。それで私のところに持ってきたのですが、確かに技術的にかなり高度な造作を必要とする図面が付いていました。それを見て他の店がなぜ、やんわりと注文を断るように言ったのかすぐわかったのですが、この指輪1本を作るのに4個の指輪を組み合わせて使うように設計されています。そのため溶接と組み合わせた中のラインをきれいに出すのがすごく難しく、値段も高くなるという品物でした。ただの加工ではなく、これは本当の職人でないとできませんね。私は1本1本リングを作り、溶接、細部の加工を施しデザイン通りに組み合わせてもうすぐ完成させます。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えてください。

指輪に宝石をはめ込んでいるところ(ろう付け)。熟練した匠の指先が繊細な作業をこなしていきます。
指輪に宝石をはめ込んでいるところ(ろう付け)。熟練した匠の指先が繊細な作業をこなしていきます。
ものづくりは自分自身を向上させるためにあるようなものです。作らなければそこで終わってしまいます。作り続けることが大事で、そこに新しい発見があり技術の向上もあります。ジュエリーの仕事で言えば、お客様から「こういうものを作ってほしい」と頼まれるのがほとんどですから、自分ではこれまで経験したことのないものを作ることになります。注文品一つひとつデザインが違い、毎日新しいものづくりに携われるという魅了がありますね。そして最後に、お客様から「思っていた通りの理想のものができました」と喜んでもらえることが一番うれしいです。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

久保田さん愛用のルーペ。何10年も使っているそうです。
久保田さん愛用のルーペ。何10年も使っているそうです。
まず、お客様が喜んでくれたことです。工房で教えている生徒たちからもお祝いを受けました。公に認められて、やってきた甲斐があります。これからマイスターとして学校やイベントなどを通して、ジュエリーの魅力を伝えていきたいと思っています。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

週に1回、工房でジュエリーの手作り教室を開いています。若い人から年配の方まで年齢層も幅広く、皆さん熱心に通ってくれます。工房のホームページで作品を発表するなど、大方の生徒さんは「作ることが好き」というのが始めた動機ですが、私はそれでいいと思っています。さっきも話したように最初から仕事や職業として目指すのは結構難しい面もありますので、趣味の範疇であってもジュエリー作りの楽しみ・魅力が味わえれば、伝統工芸も自然と受け継がれ、やがて後継者への道につながっていくのではないでしょうか。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

工房のショーウィンドーには素敵なジュエリーがいっぱい展示販売されています。
工房のショーウィンドーには素敵なジュエリーがいっぱい展示販売されています。
ものづくりで大事なのは、好きになること。そして自分がこうだと思った道を突き進むことですね。それもただ一筋ではなく、あれもいい、これもいいと幅広く取り入れていく前向きの意欲が欲しいですね。そうしないといいものはできないと思います。普通、ものづくりの世界というと、どうしても徒弟制を考えてしまいますが、私の経験で言うとまず学校で基礎を学び、それから師匠について技術を積み重ねるのも良いかと思います。昔のように親方だけについて学ぶと縦の関係しかできませんが、学校に入ると横のつながりもでき、将来的に仕事をこなす面で大きなメリットが派生すると思います。ジュエリー職人としてお店に勤めたり個人で開業しても、学校時代の仲間との付き合い方がノウハウとして生き、お客様とのコミュニケーションの面で臨機応変の対応ができるのではないでしょうか。

最後にこれからの活動について教えてください

インターネットをもっとうまく利用していきたいと思っています。例えば子供向けのキャラクター商品を開発してホームページに載せ販売していくなど様々な方法を考えています。またせっかくマイスターに認定されたので、ジュエリー作りの教室、指導を通じて「よい先生」と尊敬されるよう、さらに努めていきたいと意を新たにしているところです。それにしても国が表彰する「現代の名工」の中にジュエリー職人が含まれていないことや30年ほど前に国家検定が廃止されたままになっているのが残念です。

どうもありがとうございました。
休日には近くの多摩川に出かけてカヌーや釣りを楽しむという久保田さん。他にも趣味をたくさん持っています。手先の繊細な作業を伴うジュエリーの仕事は、それなりに神経を使いストレスも溜まるといいます。久保田さんは常に心身のリフレッシュや遊び心を忘れず、仕事に臨んでいます。
【問合せ先】  
有限会社 ジュエリークボタ

■所在地      川崎区大島2-12-5
■電話    044-246-0071
■FAX     044-246-0565
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